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2016年1月27日水曜日

東大&京大総長が国策に危機感「人文社会系には大きな価値」

東大&京大総長が国策に危機感「人文社会系には大きな価値」

  昨今は「理系」のみが持てはやされ、人文系は凋落の一途を辿っているが、これは単なる流行ではない。これはときの政権が 「人文科学系」の廃止・縮小を打ち出したことも大きな要因になっていることは否めない。

 この世の中には「ハード」もあれば「ソフト」もある。真の意味での「技術」とは、最高水準の技術を最高水準に発揮することに他ならない。そう言う意味からすれば「人文系」とか「理系」とか区別されるべきではなくて、今に両者をマッチングさせ最高水準の高みを目指すかと云うことであろう。

このたび、日本の大学中東西の横綱である「東大」と「京大」の学長同士が対談する機会に恵まれた。この両者は共に「理系」出身であるが、「人文社会系」縮小の国策を、どのように受け止めているのか、はなはだ興味ぶかくて、みなさんにも話題を提供しようと、ここに採り上げた次第である。



東大総長五神真ごのかみ・まこと/1957年、東京都生まれ。東京大学理学部卒、同大大学院理学系研究科博士課程退学。理学博士。専門は光量子物理学。大学院工学系研究科教授、副学長、大学院理学系研究科長・理学部長などを経て2015年4月から現職(撮影/写真部・大嶋千尋)

 

 

東大総長・五神真(ごのかみ・まこと)/1957年、東京都生まれ。東京大学理学部卒、同大大学院理学系研究科博士課程退学。理学博士。専門は光量子物理学。大学院工学系研究科教授、副学長、大学院理学系研究科長・理学部長などを経て2015年4月から現職




京大総長山極寿一やまぎわ・じゅいち/1952年、東京都生まれ。京都大学理学部卒、同大大学院理学研究科博士後期課程退学。理学博士。専門は人類学・霊長類学。アフリカ各地でゴリラの研究に従事。日本モンキーセンター研究員、兄弟霊長類研究所助手、大学院理学研究科教授などを経て現職(撮影/写真部・大嶋千尋)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
京大総長・山極寿一(やまぎわ・じゅいち)1952年、東京都生まれ。京都大学理学部卒、同大大学院理学研究科博士後期課程退学。理学博士。専門は人類学・霊長類学。アフリカ各地でゴリラの研究に従事。日本モンキーセンター研究員、兄弟霊長類研究所助手、大学院理学研究科教授などを経て現職

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 日本の大学の最高峰である東京大学と京都大学。昨年4月に総長に就任し、改革を推進する五神真東大総長と、ゴリラ研究の第一人者で「おもろい」大学づくりを目指す山極寿一京大総長が、国立大学の人文社会学系学部廃止騒動について持論を語った。

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――昨年、文部科学省が“人文社会系の廃止”を求める通知を大学に出して話題になりました。

山極:自然科学系は国際的発信力が強いが、人文社会系は停滞しているから縮小してもいいんじゃないか、という意見が産業界から出て、国がそれに乗っかった側面があると思います。しかし、既に人文社会系はかなり縮小されてしまっています。たとえば京大の人文社会系の教員数は全体の2割に満たない。学部は全体の半分もあるのにですよ。しかし、いくら科学技術が進んでも、それを使って社会をどう動かすかという舵(かじ)がないと、日本の国力にとってすごく大きな損失になると思います。

五神:科学技術、たとえば人工知能が進歩したとしても、それを使うのは人間で、人間とつながって初めて価値になる。これからの社会では、人文社会系が培ってきた資源を維持したうえで、さらに文系と理系を融合した新しい学問を作っていくことが問われています。それは、人文社会系をどうこうするというのとは文脈が違う議論です。

山極:京大の東南アジア研究センターには、かつてアウンサンスーチーさんが研究員として所属していました。戦中には李登輝さんもいた。アジアの国々は、日本の大学の学術に親近感を持っています。日本の大学で学んだ人たちが自分たちの国に帰ってエリートとして活躍するというのは、人文社会系学部のほうが大きな価値を持っている可能性がある。それをつぶしてしまうことは、日本にとって大きな可能性を断念するものだと、私は非常に危機感を覚えています。

五神:まったく同感ですね。人類全体がこれからどういう社会システムを作ればいいかが見えなくなっている中、人文社会系の学問は活力になります。世界のオピニオンリーダーの人たちは日本の文化、学術に関心を持っていて、日本が活躍する場所はそこにある。その芽を摘んでしまうのは明らかに向きが間違っています。先日、私と同じ物理を研究されている東大の梶田隆章先生がノーベル賞を受賞されましたが、日本ではああいった基礎研究、しかもお金がかかる実験研究を40年近くも続けています。また、それに対する世界からの尊敬や信頼があります。

山極:僕はアフリカで長く研究していたからわかるんですが、大使館職員など日本の外交筋は2、3年で代わるけれど、僕ら研究者は20年、30年と代わらず現地の人たちと緊密な関係を結んでいます。その永続性は我々が保持しないといけない。これは貴重な財産だと思います。

五神:たしかに大学はタイムスケールが長いものを担っていますよね。最近、研究の活動を評価するのに「過去5年間の著作・論文の被引用数」を目安にするという基準があります。生物系など競争の激しい分野では、2~3年で引用されないと「いい研究じゃない」といわれます。しかし、山極先生が研究されている霊長類学などはスパンがずっと長いですよね。人文社会系に至っては、既に生きていない研究者の何百年前の論文を引用することもあります。人文社会系は、そういう評価基準では測れない学問なんです。
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  安倍政権“横暴改革”で大学崩壊 人件費削減、研究者は非正規雇用に

 上に挙げた東大・京大両総長の対談に遡ること約半年前の2015年6月、当時の下村博文・文科相から各大学に対して出された「教員養成系や人文社会科学系の学部の廃止、転換を含めた組織見直し」の通知が物議をかもし、日本学術会議、大学の学部長などが反対声明を発表した。
安倍内閣が目指す「稼ぐ大学」、学問のあり方は単なる稼ぐや効率、そういう尺度で学問を研究を考えていいものだろうか?いまの政権に国政を委ねていたら孫子の代には日本の国はどうなっているのだろうか?心配の種は尽きない。


世界大学ランキングがダウンした東大 (c)朝日新聞社

世界大学ランキングがダウンした東大 
 
 
 政府は、産業力強化に向けた大学改革を進め、昨年12月、産業競争力会議(議長・安倍首相)は、国立大学を3分類し、「稼ぐ大学」にするための改革案を発表。同会議には経済再生相などの閣僚のほか、産業界の重鎮がずらりと並んだ。

 こうした、産業力を重視する安倍政権の大学改革には、批判も多い。

 2015年6月、当時の下村博文・文科相から各大学に対して出された「教員養成系や人文社会科学系の学部の廃止、転換を含めた組織見直し」の通知が物議をかもし、日本学術会議、大学の学部長などが反対声明を発表した。

「文系を軽視する背景には、一つは財務省からのプレッシャーもある。厳しい国家財政の下でより社会の需要に応える教育が求められている。もう一つは、保守的政治勢力からのプレッシャーがあるのではないか。政権批判をするのはいつも、人文社会科学系の人間ですから……」(科学技術政策に詳しい大阪大学の平川秀幸教授)

 十数年前から「選択と集中」という方針で大学などでの研究を進めてきたが、元凶はここにあるという。

 元三重大学学長で鈴鹿医療科学大学の豊田長康学長は指摘する。

「『選択と集中』はもともと産業界の経営手法で、大学でもうまくいくと多くの人が信じきっていて、これまで検証もせずに進められてきました。だが、その結果として、日本の大学の国際競争力は低下しているのではないでしょうか」

 豊田学長は、研究の競争力の指標である論文数の推移を調べ、ここ10年で日本の大学の国際競争力が低下していることをいちはやく指摘してきた。

「特に工学、物理、化学、物質科学など日本のお家芸と言われていた分野で論文数が減っています。大きな原因は、大学の研究者の研究時間が減っていることです」

 論文数が減少した時期は、2004年の国立大学法人化と重なる。国は、法人化によって大学に民間の経営理念を導入することを促す一方で、大学運営の基盤となる収入で主に教員の人件費として大きな役割を持つ運営費交付金を、毎年1%ずつ削減したのだ。

 04年から三重大学学長を務めた豊田学長は、当時をこう振り返る。
 
 「運営費交付金が削減されたので、三重大でも計画的に教員数を減らしました。例えば医学部では1講座4人の教員がいたのが3人になった。教員が減り、研究時間が減っていくので、先生たちの疲弊感はますます高まっています」

 運営費交付金が減ることで教員が減り、ひとり当たりの負荷が高まり、研究時間が確保しづらくなった。その結果、論文数の減少につながったというわけだ。

 運営費交付金が減る一方で、研究テーマを選別して研究予算を配分する競争的資金は倍以上増加。ここ10年で国立大学の運営費交付金は約1695億円減り、競争的資金は約2465億円も増加している。競争的資金はテーマや成果によって配分が決まるため、競争が促され、効率化が進み、結果が出せるというのが国のもくろみだった。

 だが、研究者を大学で安定して雇用できる運営費交付金と異なり、競争的資金では3~5年のプロジェクトごとの雇用になる上、プロジェクトのテーマの研究しかできないなど自由度が低い。12年にノーベル賞を受賞した山中伸弥氏が率いる京都大学iPS細胞研究所でも、運営資金の多くは競争的資金が占め、職員の約9割が任期付きの雇用だという。iPS細胞研究でさえ、この状況なのだ。

 かつて国の大学院重点化施策で増え続けていた博士研究員(ポスドク)や博士課程大学院生も、近年は減少傾向だ。豊田学長はこう懸念する。

「法人化で大学の裁量が増すということだったが、実際には(国の予算配分によって)研究機能が縮小しました。現在国が進めている大学改革では、機能どころか組織の縮小段階に入っています」

 法人化以降、国立大学は6年ごとに中期計画を策定し国の評価を受ける。現在策定中の計画では、目標の設定によって国からの予算配分が左右される仕組みだ。

 今年4月には改正学校教育法などが施行され、大学学長の権限が強化されたと言われるが、逆に大学の自治は奪われつつあるのが現実だという。前出の平川教授はこう懸念する。

「国からの評価と予算に、大学、学長はより縛られるようになってきています。これまで大学の自治は教授会を中心として行われてきたが、学長が国に予算で首根っこを押さえられ、国の方針に振り回されてしまう危険性がある」

                                             以上

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